酒屋の宅飲み

酒屋に勤めるサラリーマンが自宅で飲むお酒のレビュー

ケントクエステートワイナリー マスカットベリーA ナイトハーベスト 2020

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ケントクエステートワイナリー マスカットベリーA ナイトハーベスト 2020
  • 生産地:神奈川県相模原市
  • 生産者:八咲生農園/東夢
  • ブドウ品種:マスカットベリーA

「美味しいワインが作れるとは思えない」

このワインについて聞いたとき、素直にそう感じました。日本の秀逸なワインの多くが山梨県や長野県で生まれているのは知名度ではなく、日照量と降水量がブドウ栽培に適しているからです。

 

山梨の年間降水量1,100mm(全国平均1700mm~)。一般的にワイン用ブドウの理想的な年間降水量500~800mmと言われ、世界の名産地はほぼこの中に納まります。比較的雨が少ない山梨でもワイン用ブドウにとっては多すぎるのです。

 

山梨の日照時間は2,200時間(全国平均1,900時間)であり、これは日本一です。

 

いくら相模原市山梨県に接しているとはいえ、山梨のワイン生産の中心地である甲府盆地まではかなり離れています。まして相模原市は山形や青森、愛媛などと違って果物に強いワケでもありません。公式HPにも「相模原は農業の盛んな地域ではありませんが、市内にはたくさんの田畑が存在します」とあります。

 

加えてブドウは収穫後にできるだけ早く選別を行い果汁を絞る必要があるのに、このブドウ園には醸造設備が無く、委託先である勝沼の東夢ワイナリーに運んで作っているのです。マルセル ダイスの息子である、マチュー ダイスは

「父の作るブドウがもつ100%の力をいかに損なわずにワインに仕上げるかが醸造を担当する僕の務めです」と語っていました。相模原から勝沼までは約75kmあります。

 

このブドウ園の母体は驚くべきことに建設廃材処理の会社である大森(だいしん)産業です。全くの畑違いの会社が相模原に恩返しをしたい、と2014年にワイン用ブドウ栽培のために農園である八咲生農園(やさいのうえん)を設立したというのです。

 

この志と飾らないラベルは私の心を引き寄せましたが、ワインの味については期待できないと考えておりましたが、ワインを飲まずに決めつけるのは観てもない映画を批評するようなものです。

 

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健全でマスカットベリーAのワインとしてはやや濃い色調。ふわりと香る赤いベリー系の果実。失礼ながら驚きました。美味しい。頭の中では「何で?」思う一方で、舌からは確かな美味しさを脳に届けます。

 

しっとりとした果実味と穏やかな酸が生き生きとしていますが、ブドウジュースっぽさはありません。キチンとしたワインです。余韻は決して長くはありませんがバランスがとれており、心地いい味わいです。

 

情報はあくまでも情報であり、最終的には自分の舌で判断すべきだと再認識した1本です。まだまだ色々と模索中のブドウ園なのか、非常にたくさんの種類のブドウを育てています。他のワインを試したくなりました。